世の中がグリード黄金期時代であった2004年ごろ、私は西洋アンティークの純銀食器に夢中でした。
しょせん独り暮らしなので数もそんなに要らず
(手入れが大変なので)、ティーポットとティーメジャースプーン数点と食器一式だけ買って終わりましたが、あのころは鈍く輝く純銀に大興奮してたものです。
当時はまだ鋼の錬金術師はタイトルしか知らず、中身もよく分からないで「手塚先生の「どろろ」みたいな話?」などと本気で思っていた馬鹿者でした。
(・・・身体を取り戻す旅という意味では間違ってはいないが・・・)
イラスト集2を読んだところ、荒川先生が鋼を書き始めたときに資料のため1ヶ月の原稿料を叩いて西洋アンティークの銀時計を購入した、という話を読んで「やるなあ!!」と感動してました。エドの時計がやたらとリアルなので現物を見て描いてるのかなと思いましたが、まさか銀の西洋アンティーク時計だったとは。。。
なんでこんな話をするかといいますと、
アンティークはグリードの名台詞「ありえないなんてことは、ありえない」を地で行く世界だからです。
いま、私の手元にあるヨーグルト用の純銀スプーンは180年前のイギリス製のものです。磨かれて磨かれ倒したのでペラペラになってしまい、ヨーグルト用でないと折れてしまうのですが(笑)
当時のイギリスで純銀食器を使えたのは貴族などの富豪だけです。産業革命以後は中流階級にもだいぶ浸透して、この時代のはそこそこ手に入りやすいのですが。我が家唯一のヴィクトリアン以前の品です。
そんな富豪の遺産が、極東の片隅で暮らすしがない独身女のところで、ヨーグルトの容器に突っ込まれているのだから笑うに笑えません。本当に「ありえない」ことです。
しかも、この銀はどこで採掘されたものか御存知でしょうか。確証はできませんが、日本の佐渡島の可能性が大です。
南米で銀が発掘されるまで、世界最大の銀輸出国は日本でした。植民地支配への対抗策でがっちり鎖国はしてましたが、富はちゃっかり得ていました。
180年以上前の時代に、日本からイギリスまで銀が運ばれて、食器にされて、さんざん使われて、180年後日本のアンティーク市場に帰ってきて、私のところへ4000円で来た。目の前の、磨かれすぎてぺらぺらになったスプーンにはそんな過去があります。
冗談みたいな話ですが、「ありえないなんてことは、本当にありえないなぁ」と、しみじみ痛感します。
グリードより20歳だけ若いこのスプーンにもそんな歴史があるのだから、増してや生きて動いている彼にはもう、とてつもない経験と歴史が詰まっているのでしょう。
欲望の道のエネルギーの凄まじさと、今ではとても作れない繊細なデザイン、この二重の罠に引っかかるとなかなか抜け出せません。増してや生きて動く彼は三重の罠というわけで・・・
ダメだもう逃げられない orz
(まだ逃げようなどという気でいたのか貴様は)
それはともかく。
ひたすら強欲道を行き、自らもアンティークみたいな存在でもあるグリードにこの名台詞を言わせた荒川先生も、なかなかの強欲者ですね。
この人は強欲というものがどういうものか分かってるな、と、ちょっと嬉しくなった今日このごろでした。